【武カレ】= 武道武術カレンダーBlog (by soseido.org)

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2016/05/20[金]21[土]→東京/第二回「弘前藩伝・林崎新夢想流居合 研究稽古会」──そして【レポート】2016/01/23第一回&雑誌掲載

 近い。そして長い。
 打太刀と仕太刀が、膝を交えるほどの距離で座る。
 「殴った方が早い」──いや、拳に体重を乗せにくいほどの近さ。そんな間合いで、刃渡り1メートル近い刀を抜く。現代居合を見慣れた目には、一種「異様」とも見える光景だ。
 弘前藩伝 林崎新夢想流は、刃渡り三尺三寸(約九九センチ)の長大な刀で、九寸五分(約三〇センチ)の短刀が突くところを“切り止める”居合だ。これは小野派一刀流の笹森建美宗家が伝える同系別伝とも共通する。
 一般論で言うと、武器のリーチは長い方が有利だ。しかし胸倉をつかむような距離ではその力関係は逆転する。長い刀を鞘から抜く前に、小回りの効く短刀に刺されてしまうだろう。しかもこの流派は、一般的な二尺三寸(約69センチ)の刀ですら鞘から抜くのは困難な条件で、三尺三寸を抜こうというのだ。
 現代居合の主流は、定寸(基本的に二尺三寸)の刀を使うが、中には長大な刀を使う流派も少数だが存在し、どうやらそれこそが古い姿を残しているようなのだ。
 一方、祖先を同じくする現代居合の解説書では、敵も自分も定寸の刀を帯びた姿で図解されている。それは時代に応じた変化・進化であったのだろうが、その変遷の中で何を得て、何を失ったのだろうか? その違いには、多くの示唆が含まれている。
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「月刊 秘伝」2016年5月号
p102-107「林崎新夢想流居合 研究稽古会 & 渋谷金王八幡宮 奉納演武会

月刊 秘伝 2016年 05月号

月刊 秘伝 2016年 05月号

 

 

 2016年1月、「弘前藩伝 林崎新夢想流居合」研究稽古会が開催されました。
 ※ 事前記事 → http://budocalendar.hatenablog.com/entry/2015/12/17/223000
 当ブログの中の人も、23日[土]の研究稽古会、24日[日]の奉納演武会を取材してきました。
 ※ 演武会に関しては、静止画&動画集があります。→ http://budocalendar.hatenablog.com/entry/video1

 

 ……最初は「武カレ」の取材(カネにならない)の予定でしたが、途中から「秘伝」誌の取材記者Bも兼任することになりました。普段は文字ばかりの本の仕事をしていますが、稀にこうして雑誌の仕事をいただきます(まだ3度め)。当日は自分でも据え置きカメラを回したりしている(記事執筆用なので、この動画は非公開)ので、結構大変でした。

 そして取材記者A兼カメラマンは副編集長のS氏。最初は「ページ埋まりますかね」「演武会の記事を多めに」という話でしたが、筆がノリ過ぎて「研究稽古会の部分が多め」「レイアウトをかなり工夫して、6ページに詰め込む」という事態になりました(スミマセン……)。

 それでも溢れてカットしてしまった部分が、幾許かあります。……で、今回のBlog記事は雑誌掲載分とカブる内容もありますが、割愛部分を積極的に拾って構成しています。

 

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 23日の「研究稽古会」は東京都杉並区の「あざらし道場」にて行われました。参加者の経歴は居合、剣術、空手など様々。人数が多く、長尺刀を振り回すのは無理……かと思いきや、「表身」(後述)の技は狭い空間で実施可能で、意外と問題ありませんでした。

 林崎新夢想流居合の形稽古は、刃渡り三尺三寸(約1メートル)の刀を腰に帯びて、打太刀(相手役)と膝を交える距離で行います。立った状態で抜いて切り結ぶ形もあるものの、最初に学ぶ基礎は密接状態での技。趺踞(ふきょ)という独特の姿勢で坐り、「薄氷の上を歩くように」稽古します。

 現代居合から見ると異様にも見えるこの流儀は、おそらく林崎重信の技に最も近いものの一つ、と言われています。

 林崎重信(林崎甚助)は『本朝武芸小伝』でも「中興抜刀之始祖(抜刀術の中興の祖)」と讃えられる人物です。というのは、大人口を誇る無雙直伝英信流や夢想神伝流は勿論、田宮流・関口流・水鴎流など多くの居合流派の源流をたどると、彼ひとりに行き着くためです。重信自身が名乗っていた流派名は明らかになっていませんが、孫弟子の一宮照信の系統では「林崎新夢想流」と称しています。

 弘前藩の与力である小山家では、家伝の卜傳流剣術に併伝されてきました。林崎新夢想流居合に関しては正式な免許が途切れてしまったものの、小山隆秀師範は「弘前藩伝・林崎新夢想流居合」を復元すべく、部分的に習得した門人に聞き取りを行いつつ、伝書、書き付け等の研究を進めてきました。その「現時点での復元成果」を持って、今回の「研究稽古会」が開催されました。小山師範は「これが唯一の正解というわけではなく、幾つかの伝系がある林崎新夢想流の一形態、そのさらに現時点での復元だということを念頭に置いてください」と、最初に強調しています。

 弘前藩伝の内容は次のようになっており、今回は「押立」と「胸刀」を中心に講習が実施されました。
 敵(打太刀役や仮想敵)の方向別に分類し、正面、右、左、例外(複数の敵など)……と進んでいく構成は、林崎系の様々な分派にまで共通する考え方、だそうです。

 ・表身 押立・押抜・防身・除身・幕越・胸刀・頭上
 ・右身 突入・抜詰・手取抜・柄取・臥足
 ・左身 開抜・左足・鞭詰(結)・肢去抜・向足
 ・外物 七本
 ・外物許 三本
 ・極意 五本

この3本、5本、7本……といった構成や、そもそも「三尺三寸」と「九寸五分」という数字は宗教的な意味のあるスケール(寸法)で、仏教思想と繋がっています。信仰が身近であった時代、それは武士に力を与えていたことでしょう。(詳細は「月刊 秘伝」2016年5月号を参照)

 

当日の動画はこちら。

www.youtube.com

★「向身」一本目「押立」

  • ①六尺離れて、仕太刀は趺踞、打太刀は跪座。
  • ②「朝日が昇るが如く」に立って歩み寄り、また趺踞で膝を交える。打太刀の左肩に柄頭を付ける。
  • ③短刀を抜く気配を察して、左半身を引いて水平に抜き付ける。
  • ④非打(ひうち)=打太刀の右目(稽古では右耳)に向かって鯉口をぶつけるような動作。
  • ⑤打太刀は九寸五分を抜いて右膝の上に立てる。仕太刀は「天横一文字」の構え。
  • ⑥構えが「天縦一文字」に移ると、打太刀は喉へ、手の甲を下にした平突き。
  • ⑦斜め前に踏み込むことで避けつつ、首筋へ袈裟切り。
  • ⑧打太刀に切っ先を向けながら納刀。

 写真とか解説は「秘伝」誌を読んでいただくとして……字数オーバーで漏れた話を少々。

 武術の技は、見たままに解釈しては本質を見逃してしまいます(……って、色々な本や人からの受け売りですが)。

 ④で、鞘(の鯉口)を相手に向かってぶつける動作があります。これ、類似の所作が他流にもあり、正直に言えば「左手で打って隙を作るのかなぁ」と思っていました。しかし、この動作の名前は「非打(ひうち)」──「打つに非(あら)ず」というのだから、打撃技では有り得ないわけです。(まあ、他流や初心者に真意を隠す、って可能性もありそうですが)
 小山先生曰く、「崩れかけた身体のバランスを戻し、次の動きを導くためのもの」と。言葉で理解しようとするのでなく、実際に窮屈な型どおりの姿勢で動いてみましょう。……確かに、ここで非打ちを入れると、不思議と三尺三寸が軽く動いて、次の⑤に繋がります。刃渡り三尺三寸の刀は長くて重いので、手先で動かそうとするとノタノタしてしまいます。

 少なくとも江戸時代に入ってから、日常生活で定寸(基本的に二尺三寸=約70cm)を越える打刀を差して歩くことは(基本的には)考え難いですし、まして相手と肩を組むほどの間合いでそれを抜こうという状況設定は非現実的。「実戦の雛形」とは考え難いわけです。
 さて、この「非打」の際には「鯉口に人差し指を掛けるように」との指導もありました。鯉口を指で隠すわけですね。
 見方を変えると、「鯉口が先頭になる」のではなく「人差し指が先頭になる」わけです。……前者と後者では、「次の動きを導く」作用が全然違います。

 ふたつ目に講習が行われた技「胸刀」も然り。一見すると三尺三寸の重さに任せて無理やり上から押し込んでいるように見えます(雑誌参照!)。だが実際にやってみると、左手で邪魔されるだけで刀は動かなくなります。小首をかしげていると修武堂のK先生が仕太刀を交代。すると合気道の技を掛けられた時のように芯が崩れ、身体はペタンと二つに折り畳まれてしまいました。ホント、二つ折りです。笑えるぐらいに。

 体重を掛けよう、としてはいけません。ここでも「薄氷の上を歩くように」すると、力の出処が分からず、抵抗の機を逸してしまうようです。こうした“柔術的”な要素は、古い居合流派の伝書(新田宮流など)に林崎甚助の教えとして「弥和羅(やわら)と兵法との間今一段剣術有る可しと工夫して」とあることを思い起こさせます。

 

 「非打」の話に戻りましょう。「長尺の刀で座り技」なんてのはまったくの初体験でしたが、この所作を入れると、本当にスッと身体が軽く動くのです。正確に言うと「言われたとおりにやっている時には刀と我が身の重さに気づかず、省略するとそれに気付く」──いや、「鯉口を隠す指をズラしただけで、急に動作が遅れるようになる」んです。

 武術・武道の形(型)には、そうした工夫が詰まっています。ちょっとやそっとの思いつきで出来るようなものではないのだな、と脱帽の上にも脱帽するしかありません。

  文明が進歩していなかった分、身体に敏感だった人たちが、わずか数秒の所作に込めた叡智には恐るべきものがあります。

 

 …………これ、言葉で説明しても意味ないですね。身体を動かさないと、武道・武術は駄目ですよね。やってみましょう、みなさん。

 弘前藩伝に関しては教則ビデオ的な動画が公開されていますから、自習もできるのですが……


 やっぱり、直接経験したほうがいいですよね?!?


↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓

「第二回 弘前藩伝・林崎新夢想流居合研究稽古会」

https://www.facebook.com/%E5%BC%98%E5%89%8D%E8%97%A9%E4%BC%9D%E6%9E%97%E5%B4%8E%E6%96%B0%E5%A4%A2%E6%83%B3%E6%B5%81%E5%B1%85%E5%90%88%E7%A8%BD%E5%8F%A4%E4%BC%9A-680586685420300/

 津軽の武士達は「林崎新夢想流居合」という古い武術を学びました。目の前の敵が短刀で突いてくるのを、三尺三寸の長い刀を抜き一瞬で斬りとめる技です。この居合は、弘前藩士たちにとって流派の違いを越えて稽古する「共通」の武芸でした。

その開祖が戦国末期の剣豪、林崎甚助です。抜刀術や居合を創始した人物であり、その流れを汲む武術は全国各地に伝えられ、いまもなお稽古が続けられています。
講習会では、弘前藩伝・林崎新夢想流居合の基礎を解説しながら、当会で実践している身体の使い方の工夫についてもご紹介します。
交流会では、流派を超えた交流の場(21日のみ)も用意しています。
ご参加の際は、必ずしも長尺の刀でなくとも、定寸の居合刀や木刀でも大丈夫です。木刀の場合は鞘がありますとなお結構です。初心者の方も歓迎いたします。
【時間・場所】
・20日(金)
 19:45~21:45 落合第二地域センター多目的ホール
  (東京都新宿区中落合4-17-13 Tel: 03-3951-9941)
・21日(土)
 9:00~12:30 あざらし道場
  (東京都杉並区高井戸西2丁目10-25 )
【参加料】(おひとり)
<事前申し込みの場合> 
・20日 5,000円 ・21日 6,000円 ・両日割引 10,000円 
<当日申し込みの場合> 
・20日 5,500円 ・21日 6,500円 ・両日割引は無し 

 

 さて、そこでもうひとつ、「卜傳流(ぼくでんりゅう)剣術」の話をしましょう。

 これは小山家の表芸とも言え、代々相伝されてきた家伝の剣術です。流祖は伝説的な剣豪、塚原卜伝(つかはら・ぼくでん)。

 「同じ塚原卜伝を祖とする流儀ながらも、鹿島新當流剣術とは様相を異にする」と、よく言われます。長生きした武術家・武道家の多くがそうであるように、時期によって弟子に指導した内容がかなり異なっているためだと言われています。特に卜伝は非常に長生きしていますから。
 しかし、いろいろな演武を拝見していると……この2つの流儀、核となる部分に共通性を感じるときがあります。

(関連記事)

 現在、卜傳流は小山家にしか伝わっていません。その演武は日本武道館の「古武道演武大会」(下記動画)など公開の場で披露されているものの、青森以外の地で技法を紹介することはありませんでした。

 が……今回、その禁を破って一部技法の教習が行われる! とのことです(5/21[土]のみ、の予定)。

www.youtube.com


 本来の締め切りは過ぎましたが、申し込み期間は5/17まで延長されています。
 ──これはもう、申し込むしかありませんね!


(FBで発表されてから当ブログで記事化するまでにかなり時間がかかってしまいました。……紙媒体の記事を書いたら、ちょっと燃え尽きてしまいましてね……。「1月のレポート書かないと、5月のイベントは紹介できない」とか頑なに考えてしまっていましたが、考えてみればそんな必要性は無かったのです……)


《注記》
※「秘伝」の記事は小山先生ほか、皆様の校閲が入っていますが、当ブログの記事はチェック無し。ちょっとした勘違いとかも含まれているかもしれません。m(_ _)m

※記事中、流儀名は「卜傳流(ぼくでんりゅう)」、流祖の個人名は「塚原卜伝(つかはら・ぼくでん)」と、微妙に表記に揺れを持たせています。

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《宣伝》

 「月刊 秘伝」は、もうすぐ(14日)に6月号が発売になります。テーマは“音と武術”──「音と身体が響き合う 奏法と“武”における術」です。
 (はて……?以前、雑談で提案した内容にチョロッとだけ似ているような気がしなくもないですが……?)

 今回の武カレ記事は、「林崎新夢想流居合 研究稽古会 & 渋谷金王八幡宮 奉納演武会」の補足編のような感じになりました。分解写真や詳細解説つきの記事の載っている5月号は、そろそろ店頭からは消えている頃でしょうか。
 ……ということは、このリンクから買うのがいいんじゃないですかね?(あざとい)

月刊 秘伝 2016年 05月号

月刊 秘伝 2016年 05月号

 

 ※いや、最初は店頭に並んだ直後に載せるつもりだったんですけどね?